
昔から街の中にあって、お団子や大福、おまんじゅうなどを気軽に買うことができた「町の和菓子屋さん」。
ところが今、そんな身近な和菓子店を取り巻く環境がかなり厳しくなっています。
2026年に入ってから和菓子店の倒産が相次ぎ、そのペースは過去最多となる可能性があるといわれています。
しかも苦境に立たされているのは、新しく開業した店舗だけではありません。
何十年、なかには100年以上にわたって地域で親しまれてきた老舗まで、店を続けることが難しくなっているのです。
いったい、和菓子店に何が起きているのでしょうか。
2026年、和菓子店の倒産が過去最多ペースに
2026年1月から9月までに発生した和菓子店の倒産は、負債1000万円以上の法的整理だけでも20件を超えました。
前年も厳しい状況でしたが、それをさらに上回るペースです。
特に目立つのが、長年営業を続けてきた老舗の苦境です。
近年の倒産事例を見ると、創業から50年以上という店舗がかなりの割合を占め、100年以上続いてきた店も決して珍しくありません。
「100年続いたのだから経営は安泰」という時代ではなくなっているようです。
むしろ長い歴史を持つ店だからこそ、現在の急激な経営環境の変化に対応するのが難しいケースもあります。
小豆、砂糖、もち米……材料費がどんどん上がる
和菓子店を苦しめている大きな原因のひとつが、原材料価格の上昇です。
和菓子には、小豆、砂糖、もち米、小麦粉など、さまざまな材料が使われます。
例えば「あんこ」。
一見するとシンプルですが、小豆だけでなく大量の砂糖を使います。
大福なら、そこにもち米なども必要です。
そして現在は、こうした材料の仕入れ価格が上昇しています。
さらに負担になっているのが、商品を入れる箱や袋などの包装資材です。
電気代やガス代といった光熱費、人件費、配送費なども上昇しており、和菓子そのもの以外にかかるコストまで増えています。
つまり、
「材料が高くなったから少し利益が減った」
という単純な話ではありません。
お菓子を作って店頭に並べ、お客さんへ渡すまでのほぼすべてのコストが上昇しているのです。
それでも簡単には値上げできない
「それなら商品の価格を上げればいいのでは?」
と思うかもしれません。
ところが、ここに和菓子店特有の難しさがあります。
大福やお団子、おまんじゅうなどは、昔から「気軽に買えるお菓子」というイメージがあります。
数百円程度で買える日常のおやつだからこそ、少しの値上げでも消費者には大きく感じられることがあります。
例えば、いつも買っていた商品が100円台から200円台になっただけでも、
「ちょっと高くなったな」
と感じる人はいるでしょう。
たまに購入する高級スイーツなら数百円の値上げを受け入れられても、日常的に食べるお菓子では価格に敏感になりやすいものです。
そのため、原材料価格が上昇しても、その分をそのまま販売価格へ上乗せすることが難しいのです。
値上げすると今度は「買う回数」が減ってしまう
実際に価格改定へ踏み切った店でも、別の問題が起きています。
商品の価格を上げたことで、
「毎週買っていたけれど月に2回にしよう」
「家族全員分を買っていたけれど少し減らそう」
といった形で、お客さんの購入頻度や購入数量が減ってしまうことがあります。
値上げによって商品1個あたりの利益を確保できたとしても、販売個数そのものが減ってしまえば、店舗全体の売り上げが思うように伸びないこともあります。
だからといって価格を据え置けば、材料費や光熱費の上昇によって利益が減ってしまいます。
「値上げしたい。でも値上げすると売れなくなる」
この難しい状況に直面している和菓子店が増えているのです。
「お祝いには和菓子」という文化も変化
問題はコストだけではありません。
和菓子を購入する場面そのものも変化しています。
以前は結婚、出産、法事、地域行事など、さまざまな場面で和菓子が使われていました。
お祝いのお返しや手土産として、箱入りの和菓子を購入した経験がある人も多いのではないでしょうか。
ところが近年は冠婚葬祭が簡素化され、大人数へ菓子を配る機会も減少しています。
手土産についても選択肢が増え、洋菓子やスイーツ、飲料などさまざまな商品と競争するようになりました。
昔なら自然に和菓子が選ばれていた場面でも、現在はそうとは限りません。
若い世代にどう食べてもらうか
さらに大きな課題となっているのが、顧客層の高齢化です。
昔ながらの和菓子を好む人がいる一方で、若い世代にはケーキや焼き菓子、海外発のスイーツなど多くの選択肢があります。
コンビニへ行けば手頃な価格で本格的なスイーツを購入できる時代です。
町の和菓子店は、これまで以上に幅広い商品と競争しなければならなくなりました。
そのため、「昔からこの味だから」というだけでは、新しいお客さんを増やすのが難しくなっています。
もうひとつの深刻な問題「職人がいない」
和菓子業界には、価格とは別の大きな問題もあります。
職人の高齢化です。
和菓子には、機械だけでは再現することが難しい技術が数多くあります。
あんこの炊き方、生地の状態の見極め、季節や湿度に合わせた微妙な調整、繊細な形を作る手作業など、長年の経験によって身につく技術も少なくありません。
ところが職人が高齢になり、
「後を継ぐ人がいない」
という店舗が増えています。
店自体は黒字だったとしても、店主や職人が引退すれば営業を続けられないこともあります。
設備やレシピが残っていても、それだけでは店を引き継げない。
これも伝統産業ならではの難しい問題です。
借入金や設備投資も重い負担に
数年前の社会的な混乱期を乗り越えるため、金融機関などから資金を借りて営業を続けた店舗もあります。
当時は店を守るために必要だった資金ですが、現在はその返済が始まっています。
ところが返済が本格化したタイミングで、原材料費や光熱費、人件費まで上昇。
さらに店舗や工場の改修、新しい製造設備への投資が重なれば、資金繰りは一気に厳しくなります。
売り上げが以前と同じだったとしても、出ていくお金が増えれば経営は苦しくなります。
こうした複数の要因が同時に重なっていることが、現在の和菓子店の苦境につながっているようです。
一方で「新しい和菓子」は人気に
もちろん、和菓子業界すべてが縮小しているわけではありません。
新しいスタイルに挑戦することで、若い世代の支持を集めている店もあります。
例えば、
- フルーツを大胆に使った大福
- とろりとした食感を楽しめるわらび餅
- あんことチョコレートを組み合わせたスイーツ
- 写真映えするカラフルな和菓子
- 洋菓子の要素を取り入れた新感覚の商品
などです。
こうした「新しい和菓子」は、SNSとの相性も良く、これまで和菓子店へあまり行かなかった若い世代を呼び込むきっかけにもなっています。
伝統的な和菓子を現代風にアレンジすることで、新しい市場が生まれているのです。
ネット通販で全国のお客さんへ
販売方法も変わり始めています。
以前の和菓子店は「近所のお客さんが店まで買いに来る」という商売が中心でした。
しかし現在はネット通販を利用すれば、全国へ商品を販売できます。
観光客向けの商品を開発したり、大手小売店向けの商品を製造したり、地域の特産品としてオンライン販売したりする店もあります。
つまり、
「店の前を通る人だけがお客さん」
ではなくなったのです。
人口が減少している地域でも、インターネットを活用すれば全国に顧客を持つことができます。
これは小さな和菓子店にとって、大きなチャンスでもあります。
伝統を守るために「変わる」時代へ
何十年、100年以上と続いてきた和菓子店がなくなってしまうのは、とても寂しいものです。
しかし現在の状況を見ると、「老舗だから大丈夫」という時代ではなくなっていることも確かでしょう。
原材料高、光熱費の上昇、人件費、後継者不足、顧客の高齢化、贈答需要の減少……。
和菓子店には、いくつもの課題が同時に押し寄せています。
一方で、新しい商品を開発したり、ネット通販を始めたり、若い世代が楽しめる和菓子を作ったりすることで、新しいファンを増やしている店もあります。
伝統を守ることと、昔とまったく同じことを続けることは、必ずしも同じではありません。
大切な味や職人の技術を残すために、商品や売り方は時代に合わせて変えていく。
これからの和菓子店には、そんな柔軟な発想がこれまで以上に求められるのかもしれません。
町角で気軽に大福やお団子を買える風景を未来にも残せるのか。
和菓子業界はいま、伝統を次の世代へつなぐための大きな転換期を迎えているようです。