シンギュラリティが来る、2045年――そんな言葉を聞いてワクワクする人もいれば、ゾッとする人もいるはず。AIは私たちの仕事を奪うのか、あるいは逆に人間がAIを支配するのか。そんな「二択」で語られがちなAI議論に、京都大学の哲学者・出口康夫教授が新しい視点を投げかけます。
本書『京大哲学講義 AI親友論』は、ただのテクノロジー解説書ではありません。キーワードは「人間失業」「主人/奴隷モデル」「モラルベンディングマシン」──ちょっと物騒な言葉たちですが、出口教授はそれらを哲学の道具として分かりやすく紐解いてくれます。大げさに恐れる前に、まずは考えてみる。そんな姿勢を促す一冊です。
特に面白いのは、「AIを敵視する/支配する」といった単純な立ち位置に収まらない議論。AIは道具であり得るし、協働者になり得る。ならば「どうすればAIと親友になれるのか?」という問いが、生まれてきます。倫理や責任の問題、労働のあり方、そして私たちの“人間らしさ”とは何か――そんな大きなテーマが、京都大学の講義らしい落ち着いた論理で語られます。
読み終わった後には、AIへの見方が少し変わっているはず。怖れでも崇拝でもない、もっとフラットで現実的な付き合い方が見えてくる。AIとの関係性の“転換点”を考えたい人におすすめしたい一冊です。