植物が光を浴びて酸素や糖分を生み出す「光合成」。この自然のプロセスが植物だけの特権だと思われていた中、東京大学と理化学研究所をはじめとする研究チームが、驚くべき発見をしました。彼らはハムスター由来の細胞を用いて、動物の細胞でも光合成の一部を再現することに成功したのです。この実験の成果は、将来的にミニ臓器(オルガノイド)の作製や新たなバイオテクノロジーの進展に役立つと期待されています。
研究の発端は、植物の葉緑体を取り込んで体内で光合成を行い、糖分などの栄養を得ることができるウミウシの一種でした。この特異な生態に注目した研究チームは、哺乳類の細胞に葉緑体を取り込ませて同様の機能を発揮させられるかどうかに挑戦しました。
まず、研究チームは特定の条件下でハムスター由来の細胞を培養しました。そして、藻類から抽出した葉緑体と細胞を混ぜ合わせたところ、驚くべきことに細胞は葉緑体を飲み込み始めました。最大で45個の葉緑体が細胞内に取り込まれ、少なくとも2日間は分解されることなくその形が維持されていたのです。これは、葉緑体の寿命が短いとされる哺乳類細胞での驚くべき成果でした。
さらに、細胞に光を当ててみたところ、光合成の初期反応を示す蛍光反応が観察されました。この現象は、水分子の分解が起こり酸素が発生していることを示唆しています。この発見は、動物細胞が光合成の一部を担える可能性を示しただけでなく、生物学的プロセスに新たな視点を与え、将来的にはエネルギー生産や環境問題解決への応用も見込まれています。
研究チームはこの成果をさらに発展させ、より長時間にわたって葉緑体を維持する技術や、光合成の複雑なプロセスを動物細胞内で完全再現する方法を探求しています。これが実現すれば、光をエネルギー源とする新しいバイオテクノロジーの時代が開かれるかもしれません。科学界に新たな道を切り開いたこの研究は、多くの分野に大きなインパクトを与えることでしょう。